リリィ・シュシュのすべて
岩井俊二の映画には2系列あります。『LoveLetter』『四月物語』や『打上げ花火……』などのような万人好みするタイプの作品と、『PICNIC』や『UNDO』のような病理的な作品。
前者の作品群にはきまって子役というか中学生や高校生が登場し、その演出がとても上手です。
今回の作品にしても、サイトに掲載されているメイキング・レポートを読んでいると、主役の少年の演出がうまくいかずNGを出し続け、延々60回近く撮ったなどという話が載せられていました。こういうねばり強さのおかげでしょう。
だが今回は、思春期の少年少女を描いた作品でありながら、あきらかに後者の系譜に属する作品となっています。
あるいは今回の作品は、これらの2系統の作品をどこかの地下水でつなぐものとなっているのかもしれません。
というよりも、前者の作品群に宿していた思春期の不安定な心理を、もっともミニマムな形で表出させたといっていいでしょう。
セリフ回しが抜群。いかにもシナリオ然とした不自然に明晰なセリフにはなっていません。
教師を含め、ごく自然な普段の日常会話そのものの舌っ足らずのセリフ回しですが、それでいて意味が通じるぎりぎりの線をみごとにトレースしています。
音楽の使い方も抜群。この監督の特徴は、オリジナルの映画音楽に通俗名曲をクロスさせること。そしてそれが絶大な効果を現しています。
『LoveLetter』での松田聖子「青い珊瑚礁」、『スワロウテイル』での「マイウェイ」がまさにそうですが、今回もこの映画の事実上の主役ともいえるリリィ・シュシュに「アラベスク」をはじめとするドビュッシーのピアノ曲をクロスさせ、それが絶大な効果を出しています。
全編手持ち撮影にしたのは大成功。この時期の少年少女の不安定な心理感がよく表されていました。
いまは亡き篠田昇カメラマンも、以前はクリストファー・ドイルの亜流という感でしたが、晩年に至ってこの人独自の味を身につけつつあるようです。
賛否両論のこの手法、僕は強く支持します。
ただ、オープニングとエンディングにくどいくらい強調される画……少年が田圃の中でコンパクトCDプレーヤーに聴入るシーン……よほど気に入ったのでしょうが、どうしても『(ハル)』の新幹線でのすれ違いシーンを彷彿とさせます。マネというわけではないでしょうが、さりとてオマージュでもなさそう。
『スワロウテイル』はこの監督初の大作ということもあってか、本来ならばスター不要の作品にもかかわらず、江口洋介・山口智子などのネームバリューを借りていました。
しかしながら今回はそうした手も不要とみたのか、高名な俳優はほとんどいませんでした。
ネットの怖さをこのくらい表現した作品も他にありません。
古くは『(ハル)』最近では『ユー・ガッタ・メール』が思いつきますが、僕はそもそも映像表現と文字表現の世界は本質的に相容れないものだと思います。
この作品でも、そういう点を乗り越えたとは決していえませんが、こういう事情をかなりわきまえているので『(ハル)』のような間延びした内容にはなっていません。
『(ハル)』にしろ『ユー・ガッタ・メール』にしろ、最後には結局サイバー世界を突き抜けて現実の世界で出会うことになります。
しかしこの作品のサイバー世界はあくまでも閉ざされたままで、現実世界とは一線を画しています。
青リンゴを手にさまよう少年に対し、それに気づいても誰も声をかけません。サイバー世界に閉じこもったままで、現実の世界へ踏み込む者は誰もいません。
これは単に、『(ハル)』との時代の違いや、Eメールとボードとの相違というだけではないでしょう。
気になるのがラスト。
『LoveLetter』や『スワロウテイル』であれほどみごとなエンディングをみせてくれたのが、今回はやけにキレの悪い幕切れとなっています。
内容が内容だけにしかたないのかもしれませんが。
それといろいろな方からご指摘があるとおり、長すぎることは確か。2時間29分の『スワロウテイル』ではあまり感じなかったが、今度のはもう少し短くできたかも。たとえば西表島テイクは不要ではなかったでしょうか。
(03.Novembre.2001)









Commentaires
はじめまして!
TBありがとうございました。
「リリィシュシュ」についてはかなり後になってもコメントやTBがついたりするので、
それほどいろんな人に影響を与えているのだなと実感しております。
ワタシは岩井作品にはかなりウトイ女でしたが、この映画はかなりハマりました。
時間もあっというまでした。
蒼井優ちゃんも、市原隼人くんも、ドビュッシーのとても美しくて素敵でした。
これからもよろしくお願いします★
Rédigé par: ゆきぴいうんち | le mer. 24 août 2005 à 23:06