白痴■黒澤明クロニクル~12
黒澤作品では、出演者一人ひとりの演技もさることながら、複数の俳優の競演に見どころがあります。
この作品はまさにそう。森雅之・三船敏郎・原節子という当時の3大俳優・女優のコラボレーションにその妙がある作品です。
一般には、森雅之のあまりの名演に三船・原がどうしても堅くなってしまっているなどといわれていますが、なかなかどうして。三船敏郎やとりわけ原節子の演技もまたすばらしい。
原節子は『わが青春に悔いなし』の稿で絶賛しましたが、この作品でも負けず劣らず実に素晴しい演技をみせてくれます。小津映画などでフツーのおねえさんを演じるより、こういう娼婦役というか悪女役を演じた方がだんぜん合っています。
そして、大してうまい女優さんとも思えぬ久我美子もなかなかがんばっています。余談ですがこの人、溝口健二『噂の女』でもかなりいける名演技をみせてくれましたが、演出家によって伸びる女優さんだったのかもしれません。
作品としては、いい意味での怪作。完成した版があまりに長大で4時間を超えてしまったので、字幕の解説を入れて短縮したもの。
それを知った黒澤が「そんなに切りたければ、フィルムを縦に切れ!」と怒ったという有名な逸話がありますが、松竹側の城戸四郎にいわせれば黒澤の了解を得たとのこと。二人のいい分に食い違いがありますが、このような版を黒澤が承諾するはずはなく、黒澤側の肩を持ちたいところですが、真実は藪の中です。
それはともかく、最初観た時はやたらに「字幕」が多いのはしかたないにしても、人物関係がごちゃごちゃに錯綜している上「みなさん。重大な発表があります」などという直訳調の台詞もあいまって、まったくもってわけわかりませんでした。
が、再見してひょっとして観れば観るほど味の出る作品なのではと思い直すようになりました。
それと、前半のおしまいのところで三船敏郎がものすごい形相で森雅之にナイフを振りかざすシーンが凄い。あのシーンは観ていて思わずゾッとしました。
この作品、長いこと失敗作との烙印が押されていましたが、ビデオ時代になって繰り返し鑑賞できるようになり再評価されるようになった作品です。音楽でいえば、マーラーの交響曲のようなものでしょうか。









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