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ven. 22 sept. 2006

隠し砦の三悪人■黒澤明クロニクル~18

 黒澤明が亡くなった時、ふと映画評論家の淀川長治がこの映画について否定的だったことを思い出しました。淀川はいうまでもなく黒澤のファンでしたが、なぜかこの作品だけは嫌っていたようです。
 そしてビデオを再見し、なんとなくその理由がわかったような気になっていたところ、淀川の訃報が飛び込んできた記憶があります。

 よくみるとこの作品は、ブルジョワジーとプロレタリアートという2階級論的な発想が根底にあり、そして煎じていえば、愚かなプロレタリアートはすべからくブルジョワジーの支配に服するべしというメッセージであるかのように読み取れます。
 愚かな百姓二人は結局のところ足手まといにしかならなかったといいたいのでしょうか。 淀川の否定も、このようなイデオロギーに発するところにあるのでしょう。

 黒澤映画の登場人物の対立関係については、よく家父長制的などという評論をみかけます。しかしながら自分は、親子関係ということでなしに、支配と被支配、あるいはオトナとコドモの関係と解釈しています。
 登場人物の関係でも、現在まで紹介した作品に絞っても、デビュー作『姿三四郎』における大河内伝次郎と姿三四郎、『酔いどれ天使』の医師とヤクザ、『七人の侍』での勘兵衛と勝四郎あるいは菊千代というように枚挙にいとまありません。
 そしてこの作品では、三船主従と二人の百姓とがまさに支配・被支配の関係に立っています。

 この作品が公開された年は、期せずして映画動員数がピークだった年。映画産業の絶頂期ともいえる時代で、以降はテレビの影響で坂道を転げ落ちるように観客は減少しつづけることになります。
 ということで、あたかもそれを見越したかのように娯楽時代劇を作るに当っても、テレビをかなり意識したつくりになっています。
 まずは黒澤初のシネマスコープ作品。この横長な画面サイズは、テレビ画面に対抗する形で出てきたといわれていますが、その横長の画面をめいっぱい使い、画像の両端に役者を配置する構図が至るところに登場します。
 そして冒頭は百姓二人にヨタヨタと登場させるなど、当時の時代劇の常識破りのオープニング。
 それでいながらストーリーは、当時の安手のテレビ時代劇を嘲笑うかのように、お家再興、敵陣突破、悲運のお姫様というような、まるっきり通俗時代劇を地でいくような設定をわざと施し、それでいながら元祖RPGといってもいいきわめて上質なエンターティメントに仕上げた手腕はさすがのものです。
 とはいうものの、黒澤はあくまでも一つひとつの仕掛や危難(たとえば、いかに警戒厳重な関所を突破するか、等)を提示しただけで、その脱出方法は他の脚本家が考えたものばかりとか。

 映画にしろ小説にしろ、主人公はどの登場人物よりも先に登場するのが定跡だと思います。そうしないと、後々まで誰が話の軸になるのか不明確だからですが、この映画では主人公三船が登場するのはかなり経ってから、それも最初は控えめにロングでというケースは、黒澤映画でもかなり異色なのではないでしょうか。
 黒澤もこのくらいのことは充分認識しているでしょうが、そういう定跡を逆手にとりそして大成功した希有な例ではないでしょうか。

 なおこの作品では、"プロレタリアート"百姓2人(藤原釜足と千秋実)の名演と、お姫様上原美佐の拙演という好対照が見ものです。
 黒澤の映画は脇役が重要な役割を果す作品が多いですが、この作品は最たるもの。
 この作品の千秋実や藤原釜足に限ったことではなく、とにもかくにも黒澤はスタッフやキャストに恵まれた、実に幸福な作家だったとつくづく思います。
 この作品が、『スターウォーズ エピソード4』のベースになり、あの映画に登場したロボットC3-PO、R2-D2は彼らがモデルだというあまりに有名な話もむべなるかなというところです。

 しかしながら彼らとは対照的に、上原美佐は可哀想ですが黒澤映画史上最大の大根役者ともいうべきで、演技はたどたどしくセリフはまるきり棒読み。なぜこのような人を起用したのかさっぱりわかりません。
 彼女の持つキツいキャラクターに惚れ込んだのでしょうが、この程度ならばたとえば前作『どん底』で好演した香川京子をメイクでカバーすれば充分務まったものと思います。

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