用心棒■黒澤明クロニクル~20
『七人の侍』を別格とすれば、黒澤映画の中でもっとも支持を集めている作品の一つではないかと思われる傑作です。
マカロニ・ウェスタンの嚆矢となった『荒野の用心棒』には盗作され、ブルース・ウィルズ主演『ラストマン・スタンディング』として正式にリメイクされましたが、これ以外でも『荒野の用心棒』が出世作となったクリント・イーストウッドが後年アカデミー賞を受賞した『許されざる者』にもこの作品の影響が強く感じられます。
この作品の特徴を挙げると、まっさきに次の2点が頭に浮びます。
まず純粋な娯楽作品であること。
『悪い奴ほどよく眠る』で、黒澤映画には両極として娯楽作品と社会派の二面性がある旨指摘しましたが、社会派色のきわめて強い前作『悪い奴ほどよく眠る』とは対照的に娯楽性という点では最右翼に属する作品です。
ということで、社会性があまり感じられぬ作品とはいうものの、ここで描かれる2大ヤクザの抗争は、当時冷戦下で軍備増強を競い合っていた二大国を暗喩しているともいわれていますが……。
もうひとつは三十郎という黒澤映画史上最強のキャラクターを生みだしたこと。
黒澤は登場人物の造形に長けているばかりでなく、一つひとつの映画で実に個性的なヒーローを生みだし、それぞれのキャラクターには類型性を感じさせませんが、その最高峰といえるキャラクターでしょう。
この作品が公開された当時は、主人公の人物像よりも、三船の神業のような殺陣の方が瞠目され賞賛されたとのこと。黒澤自身はこういう評価が不満だったようですし、その後いろいろな映画作家によってあまたの時代劇が創られ、もっと激しい殺陣が生みだされたため、現在の目から見ればそれほどの迫力は感じられません。
しかしながら、主人公三十郎の持つキャラクターは不滅のものといっていいでしょう。
桑畑三十郎などという自分の名前すらどうでもよいような磊落さ(名を尋ねられて、その時目に入った桑畑と、自分の年齢からその場でいいかげんに答えたもの)、露悪性、おせっかい焼き、見栄を張らない、正義感が強く、そして剣はめっぽう腕がたつなど、黒澤がもっとも自分自身になぞらえ、あるいは自分が理想とする人物像に仕立て上げたといっていいでしょう。
のちに登場する赤ひげ先生がもっとも近似していますが、不思議と影が薄い存在で、三十郎のようなスーパースターとは少し趣が異なるようです。
とはいうものの、個人的には手放しに賞賛できぬもどかしさもあります。というのは、続編である『椿三十郎』の方を先に観てしまったからなのです。
物語のテンポ、明るさ、そして黒澤作品としてはめずらしく全編に漂うユーモアなど、『用心棒』に比べより洗練されているからです。
しかしながら、三船のワンマンステージといった感がより強い『椿三十郎』にくらべ『用心棒』の方が見所が多いことは事実です。
とくに脇役に関しては『用心棒』の方がだんぜん勝っています。東野英治郎、加東大介、渡辺篤などの名バイプレーヤーたちが味のある演技をみせてくれています。こういう名優たちはワキに回ってこそ本領を発揮するのでしょう。
これに比べて『椿三十郎』の加山雄三や入江たか子はいかにも弱い。まさに、孤独のスーパースターという感じです。
事実海外では先に紹介したとおり『椿三十郎』と比較して圧倒的な支持を集めており、実に対照的です。









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