赤ひげ■黒澤明クロニクル~23
『七人の侍』とならぶ黒澤明最高傑作の一つ。
単なる力作というにとどまらず円熟味ただよう名作中の名作です。
黒澤明の最高傑作となるとやはり『七人の侍』を挙げざるをえませんが、もっとも格調高い作品といわれれば、躊躇なく本作を選ぶことになるでしょう。
『椿三十郎』をはじめとしていままでたびたびお目にかかってきた儒教的父親感ないし支配関係が、この作品ではそれまでの作品とは微妙に異なる描き方がされています。
すなわち、最初は表面的には三船敏郎:加山雄三という形で顕れますが、それが後半に入ると加山雄三:おとよの関係にすりかわり、それがおとよ:長坊の関係に繋がれるという複雑な構成が、実にわかりやすく描かれていました。
また映像も迫力満点。ここでは「動」の黒澤はすっかりなりをひそめ、溝口健二を彷彿とさせる長回しを駆使した「静」の黒澤が、緊張感みなぎる映像を見せつけてくれています。
ほんの一例にすぎませんが、後半に入ってまもなくのところで、赤ひげ先生がかたくなに拒むおとよに薬を辛抱強く飲ませようとするシーンなど、実に静かな表現でありながら退屈さなどまったく感じられません。
まさに巨匠の作品という風格を感じさせる映像以外の何ものでもありません。
黒澤映画は、昭和20年代が最高だとか、昭和30年代の方がよいとかいろいろいわれていますが、こと映像美ということについては、本当に円熟味を発揮したといえるのはこの作品からだと考えます。そしてそれが結実するのが『影武者』『乱』でしょう。
黒澤作品は次作『どですかでん』からカラー化されることになりますが、本作はモノクローム作品の掉尾を飾るにふさわしい映像美を繰りひろげてくれます。
そして録音のすばらしさも忘れるわけにはいきません。
ラスト近くの、有名な井戸に呼びかけるシーンはもちろんですが、特に印象に残るのは前半部の雨のような風鈴のシーン。あの風鈴の群の大音響の後の、たった一つのか細い響きが実に効果的。今でも耳に焼き付いているようです。
この作品における家父長制的お説教くささも、作品の完成度の前にあまりマイナスには感じられませんでした。
これも、仁木てるみと頭師佳孝という子役たちの名演に負うところも大きいです。
それまで黒澤映画では子役が重要な役割を果すことは多くありませんでしたが、この作品や後年の『影武者』『八月の狂詩曲』など、子供が活躍する映画が十二分に成功していることからも、子役が活躍する映画をもっとたくさん撮ればよかったのにと思いたくなります。









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