期待以上の作品でした。心揺さぶられる作品であるにもかかわらず、よくみると書法はきわめてストレートで技巧的なところはほとんどありませんでした(あるいは決して目立たぬような技巧を駆使しているのか)。
たとえば前後編ともに入浴のシーンがありますが、対比のためのなんらかの記号かとも勘ぐりましたが決してそうではなさそう。
だから正直いって、観ている時はやや弛緩したように見受けられるところも散見され、散漫に感じたところもありましたが(特に前半部)、思い返してみるとそれらもすべて印象に残るシーンばかりでした。
まちがいなく今年観た日本映画の中で、もっとも印象に残る作品の1つでした。
第2次世界大戦ものは映画・小説を問わず何度も撮られたり書かれたりしてきましたが、波というかブームとなった時期が何回かあったように感じられます。
第1世代は終戦直後。第1次戦後派といわれる人たちが優れた小説を残しました。
野間宏「真空地帯」や大岡昇平「野火」などがその代表です。直近の生々しい戦争や軍隊の体験を基にした作品群で、主に憎悪と批判で埋めつくされたような作品が中心になっています。
第2世代は終戦から30年ほど経た時期に書かれた作品群です。やはり作者自身の体験を基にしていることに変りはありませんが、戦争批判のみならず戦争とその敗北によって歪められた自我を描くなどやや変容し多様化しています。
小説でいえば、自分が読んだことがある作品だけ列挙しても、林京子「祭の場」、加賀乙彦「帰らざる夏」、郷静子「れくいえむ」などが挙げられます。
そしてこの時期は、1970年に起った三島由紀夫の自刃に少なからず関係あるのかもしれません。
少なくとも小説上では、戦争や敗戦について直接的には多くを語ることがなかったあの大小説家がいい遺さなかったことをあたかも補おうとするかのような感を呈していました。
そしてさらにいえば、戦争や敗戦に対する見方も彼らの間にかなり温度差が感じられたものです。
そしてこの数年に亘り映画・小説を通して発表された作品を第3世代と括れないものかと考えています。
これらに共通している要素を発見するのはまだまだ先のことになるでしょう。ただ一ついえるのは、その多くが戦後生れや第二次大戦をほとんど知らない世代によって客観化して語られていることと、第二次大戦だけを捉えるのではなく、その後の復興や高度経済成長までを連続した流れとして捉えていることに特徴を感じます。
これらの台頭の要因として誤解を恐れずにいえば、第二次大戦に対するタブーが解除されたことが挙げられます。
昭和期あたりまでは、第二次大戦を語ることができるのは体験者のみであり、戦後世代は決して評論してはならないというような空気が充満していました。
しかしながら彼らが老年期に達し鬼籍に入る人も目立つようになって、ようやくこういった封印が解き放たれたといっていいのかもしれません。
この作品の感動もまさにそこにあるといっていいでしょう。
戦争体験者にややもすれば散見されるようなお説教くささや、これでもかこれでもかというようなおしつけがましさやくどさなど皆無です。
被爆体験を3代に亘って背負っていく過程が叙事詩のように描かれていますが、戦争批判も非常に緩やかで直裁的な表現は見受けられません。
にもかかわらず、原爆投下が遺した傷跡が戦後60年以上経った現在でも決して癒されていないことがまざまざと示されています。
鑑賞は109シネマズ名古屋でした。決して商業性が高い映画とはいえないにもかかわらず、メジャーのシネコンで上映されていたことは高く評価していいでしょう。
そして私事ながら、今までこの映画館で観た作品に不思議とアタリがありませんでしたが、今回今年の日本映画でも1・2を争うことになるであろう傑作に巡り会ったことは僥倖でした。
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